大判例

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名古屋高等裁判所 平成3年(行コ)11号 判決 1992年2月19日

控訴人

森孝行

被控訴人

愛知県教育委員会

右争訟事務受任者

愛知県教育委員会教育長小金潔

右訴訟代理人弁護士

加藤睦雄

棚橋隆

立岡亘

右指定代理人

武内重雄

近藤裕治

松井繁興

藤沢宣勝

小林勝三

森扶瑳雄

太田敬久

本荘久晃

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(控訴人)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人を平成元年四月一日付けをもって一宮市立浅井南小学校教諭から同市立浅野小学校教諭に転任させた処分を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

主文同旨

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、原判決二枚目裏八行目の「不当な」(本誌五九三号<以下同じ>9頁下段25行目)のあとへ「干渉・」と加え、次に、控訴人と被控訴人の各主張を加える他、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

(控訴人の主張)

一  控訴人の申立てた本件再審請求は、行政事件訴訟法一四条四項にいう「審査請求」にあたる。これは、行政府の利益ではなく、国民の利益、幸福を守る憲法の前文、同一条の国民主権の定め、憲法一三条の国民の権利は、立法の上で最大の尊重を必要とするとの規定からして当然のことであり、従って、控訴人が本件再審請求の裁決を知った日から三か月以内に提起した本訴は適法である。また、再審請求が却下された場合にも、行訴法一四条四項が適用されるものである。けだし、本件のように行政府が、正当かつ適法な審査請求を差別と偏見をもって、違法に不適法却下をしたとき、国民はその権利や幸福を侵害されることになるから、再審請求の却下を理由に前同条の出訴期間は適用されないというような解釈は、憲法に違反するからである。加えて、本件においては、控訴人は単なる引き延ばしのためではなく、自己の権利と幸福のために本件再審請求をしたのであり、また、本件再審請求に対し愛知県人事委員会は正式の判定書を出しているのであるから、前記憲法の条規に従って解するならば、これで十分再審請求が成立したとすべきである。本件再審請求を却下されても、控訴人が、本件再審請求の裁決を知った日から三か月以内に本訴を提起すれば出訴期間を徒過したことにはならない。

二  憲法や行訴法の下位法規である愛知県人事委員会規則の不服申立て規定によって、控訴人の権利を制約することは許されず、従って、再審請求がなされれば、出訴期間の延長が認められるべきものであるが、仮に、再審請求を却下した判断に違法な点のあったことが必要であるとしても、(証拠略)によると、愛知県人事委員会の委員達は、審査の初期の段階から控訴人に対し予断と偏見をもち、また、大組織の支援がないことから控訴人をみくびって、被控訴人に味方をする不公平な審査をしたことが明らかである。かように、愛知県人事委員会の判定は正当な理由がない不当なものであることが、明白であるから、本訴は適法である。

三  行政事件訴訟法一四条三項は、取消訴訟は、処分または裁決があった日から一年を経過したときは提起できないと定めている。すなわち、一年以内ならばまだ提起できるという意味である。この規定は、先に主張した憲法前文、同一条、同一三条の趣旨にのっとり定められたものである。この憲法と行政事件訴訟法の規定によれば、単に原裁定に不服である旨を明示して不服申立てをすれば足りるものであるから、当然に再審請求は成立したとみなされ、本件訴えは適法である。

(被控訴人の主張)

一  控訴人の前記主張はいずれも争う。控訴人の主張するところは、独自の見解あるいは憲法解釈にもとづき、愛知県人事委員会規則(昭和二六年九月二七日、人事委員会規則九―一)の不服申立て規定を無視するもので、到底容認できない。

二  右規則に定める再審請求を、直ちに行政事件訴訟法一四条四項にいう審査請求と同視してよいか問題であるが、最高裁判決(昭和五六年二月二四日第三小法廷)が、名古屋市人事委員会規則に定める再審の請求は、同条にいう審査請求にあたるものと解するのが相当であると判示していることに鑑み、同判決の趣旨にのっとって検討するに、右最高裁判決にいう「再審の請求自体が不適法であって、再審事由の存否についての実体的判断がされることなく再審の請求が却下されたとき」というのは、期間徒過とか、手続きの欠缺の故に不適法却下された場合に限定されないことは明らかであるが、控訴人の主張する本件再審請求事由が、およそ右規則所定の再審請求事由にあたらないのであれば、この再審請求は不適法であって、それを理由とする再審請求却下決定は、形式的裁定であり、行訴法一四条四項の適用される余地はないということになる。

三  右の観点から、控訴人の本件再審請求について検討する。

控訴人の本件再審請求の主張は、端的にいえば本件転任処分に対する不服申立ての眼目が「不服申立人の組合活動への制裁と差別のためになされたもの」にあるとして、これを巡るいくつかの主張について愛知県人事委員会の判定に判断の遺漏があるとか、愛知県人事委員会の審理方法に不満があるとするものである。しかし、控訴人のなした再審請求書における主張自体、不利益処分についての不服申立てに関する前記規則一四条一条(ママ)三号に該当しない主張ばかりで再審請求の要件に該当しないことは、再審請求書における主張自体から容易に判断できるものである。このため愛知県人事委員会は、短期日のうちに、「本件再審請求は、右規則一四条一項各号に規定する再審事由がある場合に限られるが、控訴人が再審の理由として主張する事由は、いずれも規則一四条一項各号に規定する再審事由に該当しない」として、これを却下したものである。

四  よって、本件の場合、その出訴期間は、本件転任処分についての審査請求(不服申立て)に対する愛知県人事委員会の判定(平成二年一二月四日)があったことを知った日である同年一二月五日から起算され、同日から三か月を経過した後に提起された本訴は不適法である。

第三証拠関係

本件記録中の原審及び当審における書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本件訴えを不適法として却下すべきものと判断するが、その理由は、次に付加訂正する他、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

原判決五枚目表五行目の「存在・」(10頁3段11行目の(証拠略))とあるのを「存在とその」と改める。

同判決五枚目表六行目の「乙」(10頁3段11行目の(証拠略))のあとへ「第一号証、」と加える。

同判決六枚目表一一行目の「甲第一号証」(10頁4段21行目の(証拠略))のあとへ「、原本の存在とその成立につき争いのない甲第三ないし第五号証、成立に争いのない乙第六号証」と加える。

同判決六枚目裏一行目の「単に」(10頁4段22行目)から同二行目の「あったため」(10頁4段25行目)までを削る。

同判決六枚目裏二行目の「右再審事由」(10頁4段25行目)から同三行目の「右再審事由」から同三行目の「方式を欠いた」(10頁4段27行目)までを「再審請求者が再審の理由として主張する事由が、いずれも前記規則一四条一項各号に規定する再審事由に該当しない」と改める。

同判決六枚目裏四行目の「認められる。」(10頁4段28行目)とあるのを削り、そのあとへ「、本件再審請求は、同請求書において、控訴人の本件処分に対する不服申立ての眼目は、本件処分が控訴人の組合活動への制裁と差別のためになされたものであるとしたうえで、本件判定には判断の遺漏があり、判定に至る審査手続きも不公平であった、あるいは佐藤証人の証言は偽証であったなどと主張してなされたものであったが、その内容の実質は、単に判定の基礎となった事実認定や証拠評価を争い又は審査手続の違法不当を主張してなされたものであったことがそれぞれ認められる。」と加える。

同判決六枚目裏四行目の「そして、」(10頁4段28行目)のあとへ「再審事由の主張が、形式的には前同条の事由を主張するような体裁をとっていても、その主張自体からこれが再審事由に該当しないことが明らかで、実体的判断を要しない場合は、そのような再審申立ては不適法と解すべく、従って」と加える。

同判決六枚目裏六行目の「これを窺わせる資料はない。」(10頁4段31行目)とあるのを「と言うことはできない。」と改める。

(当裁判所の判断)

愛知県人事委員会は、憲法や行訴法一四条三、四項の諸規定、更には愛知県人事委員会の審査手続きが不公平であったことに照らし、本訴は出訴期間を遵守していると主張するが、行訴法一四条三、四項に関する控訴人の解釈は独自の見解であり、これらの規定と最高裁昭和五六年二月二四日判決(民集三五巻一号九八頁)の趣旨に照らして考えれば、既に判示したとおり、愛知県人事委員会は、前示の理由で控訴人の本件再審請求を不適法とし、かつ、愛知県人事委員会の右判断を違法と言うことはできないのであるから、本訴は、出訴期間経過後に提起されたものと言わざるを得ず、控訴人の前記主張を採用することはできない。愛知県人事委員会の審査手続きが不公平であったことから、再審の請求を却下した判断も違法であるとの主張についても、右のように、愛知県人事委員会の右却下の判断を違法ということはできないのであるから、これを採用することはできない。

二  よって、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤滋夫 裁判官 宮本増 裁判官 大内捷司)

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